原点


私の全ての原点は東京都阿佐ヶ谷にあると思っている。
我が第2の故郷である。
中でも、その中心は1件の小さな喫茶店だった。商店街のはずれ。もう住宅街に埋もれて人知れずあるその店は、一日中、クラシックのレコードを鳴らしている古の『名曲喫茶』と呼ばれた店を動体保存しているようなお店だった。私の20代初頭、日がな一日を勉強したり本を読んだりして過ごした場所である。

住んでいたアパートは店まで徒歩1分。

 数年前にネットで検索した時には情報は殆どなかったが、今日やってみたら、こんな素敵な紹介が・・・
http://www.b-shoku.jp/tokushu/pickup/31/violon.html
そう。店の名はヴィオロン。店内の写真が多数。

驚いた!
全然変わっていない。かれこれ20年以上前のあの時のアンティークが、そのまま、さらにアンティークになって、そこにある。
私の指定席(勝手に・・・)は出窓に面したテーブル。写真でお分かりになると思う。

ここ、ここ!

 ここに私は毎日のように日がな一日座っていたのだ。コーヒー1杯(時にはチーズケーキも)で昼食や夕食後に戻ってきたりした。それでもいいお店なんだもの。そしてドリンクの値段を見て驚いた。あの頃と変わっていない。あの頃も安かったが、そのまま時間が止まって、さらにお得感全開になっている。当時もマスター商売する気あるんだろうかと不思議に思っていたものだが、時間を止めたまま、まだ存在していることに驚きを隠し得ない。

23時閉店までいつも居たなあ。閉店の雰囲気が良かったんだ。
その理由は閉店にかける定番の曲にある。

『パッヘルベルのカノン』

そう、映画「猟奇的な彼女」でも印象的に使われていたヴァイオリンアンサンブルの名曲。この曲を知ったのもこのお店だ。地方に移ってたまに寄ることができた時、閉店まで居られないと、この曲をリクエストして聴いてから店を後にしたものだ。
 そんなわけで、私は、途中何度かの移転を挿んでいるが9年間を阿佐ヶ谷で暮らした。実家以外では未だに最長居住記録である。東京に住むなら阿佐ヶ谷以外に考えられない。出張で宿泊するのも阿佐ヶ谷しか考えられない。この記録が破られる前に阿佐ヶ谷に舞い戻りたい衝動に駆られる。あ〜〜またヴィオロンで一日ぼ〜〜〜っと過ごせる時間が持てたらと思う。

 ここ数年、突如としてオーディオに目覚めてしまったが、ふと気がついた。真空管アンプ、手作りスピーカー・・・そして何故か平面バッフルやホーンの音に感じるシンパシー。これらはヴィオロンの音を探していたのではなかろうか。そして自分のオーディオで最もこだわるのはヴァイオリンなど弦楽器の音だったりする。

 そうなんだ。やっぱり・・・ここが原点なんだ。

Posted: 火 - 3月 6, 2007 at 02:02 午前            


©